視力を回復させる「ICL」という手術をご存知ですか?
視力矯正手術といえば、多くの人が「レーシック」を思い浮かべるのではないでしょうか。
そのレーシックに代わる視力矯正手術として注目を集めているのが、「ICL」です。
ICLはレーシックに比べると費用は高額ですが、合併症などのリスクが低いのが特徴です。
日本での知名度はまだまだですが、既に海外での認知度は高く、日本でも年々関心が高まっています。
そのICLとは一体どんな手術なのでしょうか?
当ページでICLの詳細、費用、メリット・デメリット、適用条件、リスクや後遺症などについてご紹介します。
ICL手術ってどんな手術?
ICL手術とは、簡単にいうと「目の中にレンズを埋め込む」手術のことをいいます。
ICLのレンズは「コラマー」と呼ばれるコラーゲンを含んだ素材からできているため、眼の中に入れても異物として認識されにくく、手入れをする必要もありません。
また、コンタクトレンズ同様、他の人からはICLをいれているかどうかわかりません。
ちなみに術後しばらくして目の状態が安定すれば、カラコンをいれることも可能です。
レンズは取り出すことが可能なため、万が一何か問題が起きても取り出すことができるという点で安心ですよね。
(レーシック手術は角膜を削るため、完全に元に戻すことは難しいと言われています。)
ICLの和文論文:ICL研究会
ICLの販売会社:スター・サージカル社
ICL手術の歴史とホールICLの開発
日本で話題になり始めたのは最近ですが、ICLの歴史は古く、1970年代からヨーロッパを中心に研究が進められてきました。
もっとも従来の方法では、白内障を招くリスクが認められていたので、広く普及することはありませんでした。
しかし、2000年代に「ホールICL」が開発され、そのリスクを回避することに成功します。
ホールICLは、眼の中に埋め込むレンズにあらかじめ穴をあけることにより、目の中の水の流れを自然な状態に保つことができるのです。
更にレンズの素材や手術方法にどんどん改良がくわえられ、現在では世界中のいたるところでICL手術が行われるようになりました。
ICL手術はこんな人におすすめ
ICL手術は下記に当てはまる方におすすめします。
- メガネをつけたくない、コンタクトをつけるのが面倒くさい人
- 手術のリスクが心配な人
- レーシック手術を受けることができない人
メガネをつけたくない、コンタクトをつけるのが面倒くさい人
ICL手術は目にレンズを埋め込むため、手術をしてしまえば、それ以降一切メガネなどの他の視力矯正器具は必要ありません。
日頃の手入れも必要ありません。
朝起きた瞬間から視界はクリアに広がり、メガネを壊したりコンタクトを無くしたりする心配からも解放されます。
手術のリスクが心配な人
ICL手術によって埋め込んだレンズは、再手術によって取り出すことが可能です。
万が一問題が生じた場合でも、レンズを取り出してしまえばほとんど術前の状態に戻すことができます。
レーシック手術を受けることができない人
レーシック手術は角膜を削るため、角膜に十分な厚さがない人は手術を受けることができません。
ICLであれば目にレンズを埋め込むだけなので、角膜の厚さは関係ありません。
また、三叉神経を大きく傷つける必要がないので、ドライアイのリスクもレーシックより下がります。
ICLの適応条件
ただし、検査の結果次第では55歳の人でも受けることが可能です。
逆に適応年齢でも、目の状況によっては手術をうけることができません。
視力が安定しない10代だと、折角埋め込んだレンズの度が合わなくなってしまう恐れがあるので、ICL手術を受けることは原則的にできません。
ICLのメリット
ICL手術によって視力が回復すると、生活の質が大きく向上するでしょう。
ここではICL手術のメリットについてまとめて紹介します。
- 日帰りで手術できる(手術時間:20~30分)
- 手術後は毎日の手入れが要らない
- 問題が生じた場合はレンズを取り出すことが可能
- レーシックが受けられない人でもICL手術を受けることができる
- ICL認定医が手術を担当
日帰りで手術できる(手術時間:20~30分)
ICL手術は入院の必要がなく、日帰りで手術を受けることが可能です。
手術自体も20~30分ほどの短時間で終わります。
手術直後から徐々に視力は回復していき、翌日にはデスクワークをすることも可能です。
そのため、お仕事で忙しい人でも、無理なく手術を受けることができます。
ただし、初めて来院をしたその日に手術が受けられるわけではないので、事前に検診を受けて手術のスケジュールをたてる必要があります。
手術後は毎日の手入れが要らない
ICLの手術自体は決して安いとはいえません。
しかし手術をした後は、手入れをする必要がないので、現在コンタクトレンズを使用している人にとっては、長い目で見れば節約につながります。
忙しい朝や疲れた夜にコンタクトを扱う煩わしさ、眼科でのコンタクトの処方、外出先へ洗浄液を持参する煩わしさから開放されるのです。
ただし、術後の定期的な健診(術後1週間、1か月、半年など)には必ず通うようにしましょう。
(ほとんどの医院では、規定回数の定期検診代は手術費用に含まれています。)
問題が生じた場合はレンズを取り出すことが可能
角膜を削り取るレーシックと違って、ICLは万が一なにか問題が生じた場合はレンズを目の中から取り除くことができます。
もし将来ICLに代わる画期的な視力矯正方法が発明されたとしても、レンズを取り除けば手術前の状態に戻すことができるので安心ですね。
レーシックが受けられない人でもICL手術を受けることができる
レーシック手術は角膜を削る必要があるため、角膜に十分な厚さがない人は受けることができません。
しかしICL手術であれば角膜の厚さは関係ないため、レーシック手術ができない人でも受けることができます。
また、レーシック手術ができない強度の近視の人でも、ICL手術をうけることができます。
くわえて、一度レーシック手術を受けたことがある人でも、再矯正のためにICL手術を受けることが可能です。
ICL認定医が手術を担当
ICL手術は資格の要らないレーシックとは違い、ICL認定医でなければ手術を行うことができません。
そのため、安心して専門の医師に手術を任せることができます。
ICLのデメリット
とても魅力的なICL手術ですが、メリットばかりではなく、デメリットもあります。
ここでは、ICL手術のデメリットについてまとめて紹介します。
- 手術費用が高い
- 術後の一定期間は日常生活の制限がある
手術費用が高い
ICLは保険がきかない自由診療のため、手術費用は高額です。
医療機関によって値段は変わってきますが、おおむねレーシックと比べて2倍ほど値段の開きがあるようです。
ICL手術を断念する一番大きな要因は、この高額な手術費用ではないでしょうか。
術後の一定期間は日常生活の制限がある
手術後の一定期間は、アイメイクや運動、飲酒、プールなどの行動が制限されます。
しかし定期健診で医者が診断し、術後の経過とともに次第に制限が解除されていき、しばらく経てばすべての制限が解除されます。
(ただし、ボクシングなどの格闘技は、目を直接殴打する可能性があるので、控えることを強くおすすめします。)
ICL手術のリスク
ICLは、手術費用が高額である分、レーシックよりもリスクが少ない手術形式であると言われています。
しかし、いくらリスクが「少ない」とはいえ、少なからずリスクが「存在している」のは確かです。
ICL手術を受けた後、頭痛などの体調不良に悩まされて、手術によって埋め込んだレンズを摘出したケースも存在します。
直接的なデメリットだけでなく、極まれに起きるリスクも理解したうえで手術に臨まなければ、後々手術をしたことを後悔することになりかねません。
ICL手術が失敗する可能性はあるのか?
ICL手術は、両目あわせて20~30分程度で終わる手術です。
目の中を切開する手術なので、もし万が一失敗した時のことを考えるととても恐ろしいのですが、ICL手術を行うことができるのは「ICL認定医」のみです。
知識と技術のある医師が手術を担当するので、手術自体が失敗する恐れはほぼないと考えて良いでしょう。
そのような事件もあったので、衛生面に関しては現在では特に厳重に注意されて手術が行われています。
ハロ・グレア現象が起きたり、光の輪っかが見えたりする?
ハロ・グレア現象とは夜間に光がにじんで見えたり、また強く見えたりする現象のことです。
レーシック手術によって角膜を削ったことによる主な後遺症として報告されているこの現象ですが、3mmほどの穴を角膜にあけてレンズを挿入するICL手術でも、レーシックよりも確率は低いとはいえ同様の現象は起こり得ます。
また、ICLで埋め込むレンズ「Hole ICL」にはレンズに穴が開いています。
この穴の発明により、目の中の水流が自然になり、従来の穴の開いていないレンズよりも白内障などの合併症の発生リスクを抑えることに成功しました。
しかし、明るいところを見ると、まれにその開いている穴が「光の輪っか」となって視界に浮き出てくることが報告されています。
このハロ・グレア現象や光の輪っかが見える現象が起きたとしても、大体の人は時間の経過とともに慣れていく、とされていますが当然感じ方には個人差があります。
ICLで埋め込んだレンズがずれてしまうことは無いのか?
ICLは目の中の虹彩と水晶体の間にレンズを差し込む手術です。
普段生活しているうえでは、そのレンズがずれてしまう可能性はほぼ無いと言えます。
例えばICL手術を行ったHKT48の指原梨乃さんでいうと、ライブで激しいダンスを行っているにも関わらず、レンズがずれたりするような事態は今まで起こっていません。
このようなスポーツを日常的に行っているプロの選手などは、ICLの手術を行うかどうかは慎重に考えた方が良いでしょう。
過矯正になってしまうと頭痛などを引き起こす?
ICLによって埋め込むレンズの度数は、担当医と相談して慎重に決める必要があります。
レンズの度を強くし過ぎて過矯正になってしまうと、確かに視界はクリアに見えますが、見えすぎることによって目の使い方が変わってくるために頭痛を引き起こし、PC作業などを長時間行えなくなってしまう可能性があります。
軽度の過矯正の場合は時間がたてば視力が低下して落ち着く可能性がありますが、強度の過矯正の場合は、埋め込んだレンズを取り出さなければなりません。
強度の過矯正の場合、頭痛の他にも吐き気や痙攣などを引き起こす可能性があります。
ICLのレンズの度数は、検診の際に担当医としっかり時間をかけて決めましょう。
頻繁に手術が行われるようになってからまだ日が浅い?
ICL手術は1970年代から行われている視力矯正手術です。
しかし当初は白内障のリスクが高かったため、広く普及するようになったのはHole ICLが開発されてからでした。
Hole ICLが開発され、手術が頻繁に行われるようになってからは、10年も経っていません。
ICLは目からレンズを取り出すことができる可逆性があるとはいえ、数十年先にICLを行った目がどうなるのかはまだ誰にもわかりません。
まだ開発されたばかりの技術であることをしっかりと認識しましょう。
ICLの手術費用
ICLの手術費用は手術を行う医療機関によって異なりますが、だいたい60万円~70万円が相場です。
乱視がひどかったりする場合は、特殊なレンズが必要になるので、追加料金がかかってきます。
決して安いとは言えない手術費用ですが、前述したとおりコンタクトを使用している人にとっては、長い目で見るとICLの方がコストパフォーマンスは優れているかもしれません。
1年間 | 10年間 | 20年間 | 30年間 | |
ICL手術 | 60万円 | – | – | – |
1dayコンタクト | 6万円 | 60万円 | 120万円 | 180万円 |
2weekコンタクト | 3万円 | 30万円 | 60万円 | 90万円 |
こちらの記事で取り上げた有名な病院の手術費用を元に、中間価格の60万円で比較しています。
ワンデーコンタクトの場合は約6万円/年間、2週間の場合は約3万円/年間のコンタクト代が必要になります。
(コンタクト代とは別に、ケア用品代やメガネ代、眼科の診察代などありますが、ここでは概算のため省きます。)
1dayコンタクトなら10年、2weekコンタクトなら20年でICL手術と同じ金額になるのです。
さらに、ICLのメリットは金銭面だけではありません。
コンタクトを処方してもらうために、毎回通院する手間から開放されます。
くわえて、長年コンタクトを使用してきた人は、結膜炎を発症したり、ドライアイになったりしたことが一度や二度はあるのではないでしょうか。
そして何よりも毎朝コンタクトをつける必要がない快適さを考えると、この値段を高いと考えるか安いと考えるかは人次第かもしれません。
レーシック手術はICLのような認定医でなくてもできてしまうため、知識や技術のない医師が手術を施し、集団感染事件などが起きてしまいました。
でも実際には、適切な医院で手術を受けた多くの人が、レーシックによって現在も快適な日常を満喫しています。
一人で悩んでいてもわからないので、まずは専門医の診断を受けて、ICLやレーシックなどの手術が可能なのか、それともコンタクトやメガネを継続すべきなのか考えることをおすすめします。
ICLとレーシックの比較
視力矯正手術として、一番有名なのは「レーシック手術」かと思います。
ICLとレーシックの違いをまとめると下記のようになります。
- ICLには可逆性がある
- ドライアイなどの合併症のリスクはICLの方が低い
- レーシックは視力が低下する可能性があるが、ICLはずっとそのまま
- ICLは認定医しか手術をすることができない
- レーシックの方が手術費用は安い
ここでは、それぞれの項目についてわかりやすくご紹介します。
ICLには可逆性がある
レーシックは角膜を削って視力を矯正する手術です。
削られた角膜は再生することはないので、手術後に合併症が出てしまった場合、手術前の目の状態に戻すことはできません。
それに対してICLは、角膜を削らずにレンズを埋め込むだけなので、万が一何か問題が起きた場合でも、レンズを取り出してしまえば、元の状態に戻すことが可能です。
もし何かが起きてもICLならば取り返しがつく、というのが大きなポイントですね。
仮に将来ICLやレーシックよりも優れた視力矯正手術が開発されたとしても、ICLならばレンズを取り除いて、その手術を受けることができる可能性は高いです。
ドライアイなどの合併症のリスクはICLの方が低い
レーシックは角膜をレーザーで削るため、それが三叉神経(涙を出す働きのある神経)に影響してしまった場合、人によってはドライアイなどの合併症が出る可能性があります。
ICLは角膜を削り取らないため、レーシックよりもドライアイなどの合併症のリスクは低いです。
レーシックは視力が低下する可能性があるが、ICLはずっとそのまま
レーシックは、折角手術を受けて向上した視力も、数年・数十年で元に戻ってしまう可能性があります。
原因は生活習慣や老化、合併症など人によってそれぞれですが、視力が元に戻った結果再度レーシック手術を受ける人もいるようです。
しかしレーシックは角膜を削る手術のため、受けられる手術回数には限度があります。
角膜の厚さによっては一度しか受けられない人、もしくは最初から受けることができない人もいます。
それに対してICLは、コンタクトのような埋め込みレンズで視力を矯正しているので、視力が低下する心配はありません。
また、レーシックを受けられない角膜の薄い人でも、ICLならば受けることができます。
ICLは認定医しか手術をすることができない
レーシック手術は、極端にいうと医師免許を持っている医者であれば誰でも執刀をすることができます。
レーシックを選択するのであれば、眼の専門医の証である「日本眼科学会認定専門医資格」をしっかりと持っている医者なのかを確認しましょう。
ICL手術は、「ICL認定医」の資格を持った医者でなければ執刀をすることができません。
そのため、ICLであれば、間違いなくしっかりとした医者から手術を受けることが可能です。
レーシックの方が手術費用は安い
手術費用は医院によってピンキリですが、レーシックはおおよそ30万円代で手術を受けることが可能です。
それに対してICLの手術費用は60~70万円代。
レーシックであれば、ICLの約半分で視力を矯正することが可能です。
ICL手術の流れ
ICL手術は、当日の手術だけでなく、術前検査や手術後の定期検診が必要不可欠です。
ICL術前検査
まずは専門医に検査をしてもらいます。
ICLはレーシックと違い、「ICL認定」を受けた医者でないと手術を行うことができません。
しっかりと知識・技術のある専門医から手術を受けることができるのは、安心できるポイントですね。
検査自体は2時間ほどで終わります。
検査には、眼の瞳孔を大きくする目薬を使います。
そのため、個人差もありますが検査後3~4時間程はいつもより光がまぶしく感じられるので、周囲への注意が必要です。
眼の状況によっては、術前検査で、ICL手術が不適応だと診断されてしまう可能性もあります。
検査終了後に、その人に最適なレンズを選択します。
普通のコンタクトの検査と少し似ていますが、一生使い続けるレンズなので、時間をかけてしっかりと精密検査をする必要があるのです。
ICL手術は、万一レンズの度数などが合わなければ、取り出して別のレンズに変更することもできます。
そうはいっても、コンタクトのように簡単に交換できるわけではないので、術前検査は非常に重要なのです。
術前検査で最適なレンズが決まったら、在庫数にもよりますが、短くて3週間ほど、長くて3か月ほどレンズが入荷されるのを待つことになります。
ICL手術に興味がある方は、なるべく時間のあるときに、術前検査や適応性の検査をしておくことをおすすめします。
ICL手術当日
ICLの手術自体は、平均して20~30分と、とても短時間で完了します。
まずは、手術前に点眼麻酔を行います。
目薬による麻酔なので、注射器を使うことはありません。
麻酔が効いたら角膜に3mmほどの切り込みを入れて、その切り込みから折りたたんだレンズを挿入します。
折りたたまれたレンズは目の中で自然に広がるので、その四隅を虹彩と水晶体の間にはめ込み、手術は終了です。
麻酔が効いているので、手術中に痛みなどは感じませんが、人によっては「術中は目に圧迫感・異物感があった」と感じることもあるようです。
ICL手術を受けた直後から、ある程度視力は回復しています。
術後の数時間は休養を取り、その間も定期的に目薬をさすことによって視力は向上していきます。
個人差もありますが、翌朝にはデスクワークをすることも可能です。
ICL手術後の経過
手術後の生活では、ある程度の制限があります。
例えば、女性のアイメイクは術後一週間のあいだ行うことができません。
経過にもよりますが、ジョギングなどの運動や温泉は2週間ほど、飲酒やテニスなどは1か月、プールは2か月の間、医師の許可がでるまで行うことができません。
それらを考慮して手術のスケジュールを組む必要があります。
まとめ
ICL手術はリスクが少ない、優れた視力矯正手術です。
費用は高額ですが、それだけの価値はあるといえるでしょう。
しかし目の状態は人それぞれです。
ICLがいくら優れた視力矯正手術であるとはいえ、リスクも少なからず存在しますし、必ずしもICL手術があなたにとってベストな方法であるとは限りません。
角膜の状況によっては、ICLよりも費用を抑えられるレーシックでも十分安全に視力を取り戻すことが可能です。
一方で目の状況によっては、ICL手術やレーシックを受けられない可能性もあります。
まずは専門医の診断を仰ぎ、相談したうえで、どのような方法をとるのか考えることをおすすめします。